「ブランディング」とは、簡単に言うと「ブランド化して企業価値を高める経営戦略」ですが、単に表面的な見栄えを整えて「はい、ブランディングの出来上がり」、という短絡的な捉え方をする人が多いと感じます。
「ブランディング」を単なる「イメージアップの施策」というニュアンスで捉えている方も多く、元の言葉の意味とのズレを感じます。「ブランディング」が本来どういったモノであるのかを考えて行きます。
「ブランディング」の大前提は商材・サービスの品質
「ブランディング」とはマーケティング用語であり、
ブランディング(英: branding)とは、ブランドに対する共感や信頼などを通じて顧客にとっての価値を高めていく、企業と組織のマーケティング戦略の1つ。ブランドとして認知されていないものをブランドに育て上げる、あるいはブランド構成要素を強化し、活性・維持管理していくこと。また、その手法。
ブランディング(ウィキペディア)
という事になるかと思います。
つまり、既にあるブランドの場合「顧客のファン化」であり、またブランドがまだ無い(或いは認知されていない)場合は「組織や商材のブランド化」という事にであり、これらの目的は競合他社との差別化を行い優位性を保つ、ということになります。
ここで根本的な大前提として認識したいのが、「そもそもの商材の良さ(品質)有りき」という事です。粗悪な商品やサービスを「ブランド」といっても「誰もファンにならない」、「誰も共感しない」でしょうし、そもそも「ブランド」にはなり得ないという事実です。
「ブランディング」をする対象となる「企業・組織、サービス」は、多くの人が共感でき、品質や語れる背景(歴史やコンセプト、カルチャー)を持ち合わせいる必要があるのです。
「ブランド」は滲み出るもの
マーケティング施策として「商材の差別化・認知拡大の為にブランディングを」という事が言われますが、この場合対外的な見え方、具体的には「ロゴ」、「店舗内装」、「ユニフォーム」、等のデザイン開発などを中心に議論される事が多いと思います。
しかしブランディングで本当に大事なのは「ブランド化に耐えうる商材・サービスの品質」、であり「組織内部でのブランドへの共通認識(ブランドの理解)」なのです。
例えば『スターバックス』であれば、テレビCMもしていないし、広告を目にすることも殆どないですが、人々のスターバックスに対する印象は大体共通している。
- オシャレな雰囲気
- フレンドリーなスタッフ
- ゆったり落ち着いた空間
全国どこの店舗でも『スターバックス』はこういった印象を与える様にデザインされています。
『スターバックス』のコンセプトは「心地よい空間の提供」であり、コーヒーショップで有りながら単に「コーヒーを売る」だけでは無く、「体験の提供(心地よい空間)」という概念が根底にあるように感じます。
真のブランドは顧客を選ぶ
スターバックスのブランド力は「現場スタッフたちのコンセプト理解」で成り立っており、どこの店舗にいっても共通の「心地よい空間」が再現されています。だからこそファンが値付き、さらにブランド力が強化されるのだと考えられます。
スターバックスの「フレンドリー」、「オシャレな雰囲気」などのコンセプトが好きな人はファンになるし、多少値段が高めでもスターバックスでコーヒーを飲みたいと思うのだと思う。逆にそういったモノが苦手という人もいるだろう。苦手な人はどちらにしてもスターバックスからすると「お呼びでない顧客」という事になる。
『スターバックス』の「フレンドリー」、「オシャレな雰囲気」、「居心地よさ」などのコンセプトが好きな人はファンになるでしょうし、多少値段が高めでも「スターバックスでコーヒーを飲みたい」と、成るのだと想定できます。
逆にそういったモノが苦手という人もいるでしょう。苦手な人はどちらにしても『スターバックス』からすると「お呼びでない顧客」という事になるでしょう。
つまり『スターバックス』は「ブランディング」によって「顧客を選び」、「価格競争からも脱却」しており、結果的に「競合他社との差別化」も達成している、(他社が真似するのは仕方ないとしても)という事になります。
「ブランド」の浸透には時間が必要
『スターバックス』の様な「ブランディング」は一朝一夕で出来ることではありません。例えば、従来の喫茶店的なコーヒーショップのステレオタイプなイメージは、「タバコが吸える」、「薄暗い」、「ちょっと気軽に入りづらい」といったイメージであったと思います。
『スターバックス』はこれらのイメージの真逆の事柄、「タバコは吸えない」、「明るい心地よい空間」、「フレンドリーな雰囲気」を浸透させていったのです。
コーヒーショップの価値観そのものを覆す様な強いコンセプトを曲げずに貫いて来たからかこそ、ブランドは浸透し、「一度根付いたファンはファンで有り続ける」という事になるのだと考えられます。これは簡単な事ではありません。
当然の事ですが、「ロゴを一新して、WEBサイトを今風にカッコよくする」だけでは「ブランディング」には成り得ません。
「ブランディング」とは「イメージアップ戦略」の事ではない
「webブランディング」、「SNSブランディング」、「セルフ・ブランディング」などの様な「ブランディング」を連想させる言葉が流行っていますが、これらの流行語には本来的なブランディングの意味からズレた「イメージアップ戦略」のニュアンスが強い様に感じられます。
「言葉は時代によって変化する」というモノではありますが、これらの流行語はブランドの本質的な部分、「中身の品質」を置き去りにした印象があり、あまり好感を持てません。
例えば、「ホームページを改善して消費者に組織・サービスの魅力を伝える」というのは「ブランディングの一部」として行うべき施策ではありますが、それがブランディングの全ではないのかと思います。
こういった施策を「webブランディング」と呼ぶ事自体はまだ良いですが、「今風のイケてるサイトに仕立てる」事自体を「webブランディング」と言う風潮にはやや違和感を覚えます。
最新のトレンドを取り入れて、英語のキャッチコピーで美しい写真や凝ったアニメーションが展開されても、「何のページか分からない」というホームページが多いのも現実です。その上重いページを読み込む為のローディングが5〜6秒続けば、「ブランディング」どころか「不信感」しか芽生えません。
こういった「見せかけだけのブランディング」は大金を叩いても全くの逆効果であり、企業価値を落とす自体にも成りえます。
最後に
ブランドの浸透には時間がかかり、ブランディングは単なる見た目の話では無いという事が理解できたかと思います。そして先ず何よりも「商材・サービス」と「コンセプトの中身」が重要、と言う事が明確になったのではないでしょうか?。
しかし「商材やコンセプト」が人を惹きつける魅力的なモノであっても、放っておいてもブランドは認知されません。
先ずは「内部的なコンセプト理解や組織への忠誠心」や「内部的なブランド認知」を徹底してから、対外的な施策として「ブランドを世間一般に認知させる」フローが「ブランディング戦略」という事になるのです。
「一部分だけ綺麗に化粧をして対外的な見栄えを整える」事はブランディングの本質ではありません。
「ブランディング」は安易に一長一短に出来ることでは無く、またお金を積めば出来ることでもありません。日々の積み重ねで「企業・サービスの価値を高めていく姿勢そのモノが重要」という事を理解しましょう。