「デザイナー」という職業(これは主にグラフィックデザイナーやwebデザイナーなどの商業デザイナー等)は資格が無くても誰にでも成れます。
それ故に「デザイナーとはこういう人です」という明確な指針がなく、皆がそれぞれの思い込みで「デザイナー」をやっているのが現状です。
「デザイナー」にも色々なタイプがあり様々なタイプが居ても間違いでは無いですが、「デザイナー」が世の中でさらに活躍するには、どういった思考が必要か?「今の時代に活躍するためのデザイナー像」を考えてみたいと思います。
「デザイナー=仕立て屋」という誤解
まず「デザイナー」と言うと、どういったイメージがあるでしょうか?
一般的にはやはり「表面的な絵的な部分の担当者」のイメージが強く、人によっては単に「絵描き」、「図案係」という認識の場合もあるでしょうか?
「デザイナー=絵描き」、これは全くの間違いではないですが、しかしながら「デザイン」という言葉の本来の意味を考えるとは、これは随分と狭い解釈になるかと思います。
なぜこうなるかと言うと、日本においては「デザイン/ design 」という言葉を「スタイリング/ styling 」と混同していることに起因しており、この関係で「注文通りに絵を仕立てる仕立て屋(職人的な)」のイメージにも繋がっているのです。
しかも日本は「ものづくり大国」であり「職人」という言葉には尊敬の念もあり、「デザイナー=職人」という言葉に納得し、寧ろ誇りに思う人も多いという印象です。
「スタイリング」はデザインの一部
この職人的なイメージは確かに、かつての烏口(からすぐち – 製図やトレース、レタリングなどに用いられる、均一な太さの線をひくための描画用具)で製図していた頃のグラフィックデザイナーにはそういう側面も少なからずあったことでしょう。(かつては「烏口で思い通り線を引けるようになるまで3年」などと言われていました)
しかし現代のコンピューターを使ったデザインワークでは職人的な技などは然程必要ないのです。線は数値を入れれば思い通りの太さで引けますし、タイポグラフィもフォント(デジタル文字)の組み合わせだけで出来てしまいます。ですので、例えばwebデザインなどならコツさえ掴めば小学生でも表面的な「真似事」は出来てしまうのです。
ただしこの真似事で絵を仕立てるという行為は「スタイリング(装飾)のトレース(写し)」という事になります。決して本質的な意味での「デザイン」という事にはなりません。
「デザイン」とはその「創作物(ここではwebサイト)が、どの様な目的で誰に訴求し、どのように機能するかを戦略的に熟考し視覚化(スタイリング)する」行為だという事であり、この過程の中で最後のスタイリングは「デザインの一部分」に過ぎないのです。
「デザイナー」の役目は問題解決
そもそも、「商業デザインの目的」というのを考えてみますと、 これは当然の事ですが、「ビジネスで機能する様にコトやモノを設計する(デザインする)事なのです。
具体的には、クライアントが抱える問題を考察し、適切な道筋を立てる、必要な機能を作る、または改善する、などの一連フローが「デザイン」なのです。
問題を抱えてるクライアント(患者)を、どういった手段でこれを治療(解決)するかが「デザイナー」の役目となるのです。
先ずは徹底的な「ヒアリング(問診)」をして、予算や目的に応じた「解決案として施策(何を作るべきか)」のを方向づけを行い、実際の「クリエイティブ制作(治療)」に入るという工程そのものが「デザイン」なのだと言えます。
デザイナーは「クリエイティブのコンサルタント」であるべき
この一連の工程を見るとデザイナーは「絵描き」といううよりは、むしろクライアントにとっての「医者」である、という事が分かるかと思います。
デザインとは「方向付け」であり「戦略」であり、現代のデザイナーは「職人的な技術屋」というよりは、問題解決が根本とした「コンサルタント的な職業」に近い、という事になるかと思います。
クライアントにとってのベストなクリエイティブとは?
職人は注文の品を要望通り作るのが仕事ですが、デザイナーは常に問題解決を前提に仕事に取り組む必要があるのです。施策は「クライアントにとってのベストなクリエイティブ」を考える必要があります。
ここで言う「クライアントにとってのベストなクリエイティブ」とは、当然ながら「クライアントのビジネスにとって成果が上がる」という事が最優先されるべきです。
この「ベストなクリエイティブ」をクライアントの「好みや」、単なる雰囲気が重視の「流行り」と取り違えてしまうと、全く見当違いな処方をしてしまうことになります。(医者で言えばヤブ医者です)
そして、デザインしたクリエイティブが上手く機能するまで随時調整する必要もあるでしょう。(作っておしまい、作りっぱなし、と言うのはこれまたヤブ医者のやることです)この工程は医者で言うと「往診」という事になります。
これら一連の工程から分かる様に、デザイナーとクライアントが対等な関係でなければ「成果の上がるクリエイティブ」を生み出すことは出来ません。
デザイナーはどちらかと言えばプロジェクトをリードしてクライアントが抱える問題を掘り起こし、適切な処方を行い、クリエイティブを形にする必要があります。
決して「単なる御用聞きになって言われたままクリエイティブを作る」という風は仕事をするべきではありません。(「オペレーター」では無く「デザイナー」を名乗るのであればなおさら)
最後に
デザイナーはただ注文通り仕立てるのが仕事ではなく、常に問題解決の視点を持って仕事に取り組む必要がある、というのが理解できたかと思います。
世間では「デザイナー」とは「フォトショップやイラストレーターが使える人」などという見当外れな認識もありますが、問題解決には「フォトショップ」も「イラストレーター」も本質的には必要ないのです。
「デザイナー」に本当に必要なスキルはソフトの操作ではなく、「クライアントの病を治癒する問題解決力」だと言えます。その視点が無ければ、どんなに美しくクリエイティブを仕立てても「ただのお絵かき」という事になってしまいます。
現代のデザイナーは「クライアントにとっての医者」であり、自身が生み出したクリエイティブに責任を持つ義務があります。
こういった考えが現代のデザイナーが世の中で求められ、活躍する条件なのかと感じます。