今、ビジネスの世界で盛んに語られている「デザイン」の重要性。ここで言う「デザイン」とは一体どういう意味なのか?
デザインとビジネスの結びつき、また企業とデザイナーの関係性について考えてみたいと思います。
ビジネスの中での「デザイン」の意味
「ビジネスにデザインを活かそう」と言われても、正直どういった事なのか? イメージが付き難いのかもしれません。
この理由は「デザイン」という言葉が様々な意味で使われてしまっている、という事に原因があります。
「ビジネスにデザインを活かそう」と言った場合の「デザイン」とは表面的な色や形の意味ではなく、「ビジネス全体を適切な方向に舵を取る指針」の様な意味合い、もう少し砕けた言い方ですと、「事業全体の設計図」といった意味で理解されと分かりやすいのかと思います。
経済産業省・特許庁が考える『デザイン経営』
この「デザインをビジネスに活かそう」という取り組みですが、実は国家レベルで推奨されている事なのです。
こちらは『デザイン経営宣言 – 産業競争⼒とデザインを考える研究会(PDFファイル)』で詳しく語られていますので一読されると良いでしょう。
こちらで述べられている『デザイン経営』とは、デザインの力で企業の「ブランド力」及び「イノベーション力」の向上を目指す、という考え方です。
具体的には「経営層にデザイン責任者を据え戦略的に商品・サービスの開発を行いましょう」という事です。
これはデザイナーが旧来的な役割として「パッケージやホームページなどの制作物を単に作る」のでは無く、「商品・サービス開発の上流から関わり」それにより戦略的な商品開発を実現する、という戦略的な方法論なのです。
これにより企業の産業競争力を向上させ、再び世界市場での日本企業の国際競争力を向上させよう、という思惑が当然あると考えられます。
「デザイン」を経営に生かした企業の例
それでは実際にデザインをビジネス取り入れ業績を伸ばした企業を見てみましょう。誰もが知る超有名企業を箇条書きでざっと並べてみます。
- Apple(IT機器・ソフトウェア)
- トヨタ(自動車)
- ユニクロ(衣料)
- ダイソン(家電)
- 3M(化学製品)
- 富士フィルム(薬品)
どうでしょう。何となく『デザイン経営』のイメージがつくのではないでしょうか?単純に「何か儲かってそう」な、感覚的に言うと「シュッとしている」しているというか、しかも「嫌味がない」という様な。
この「イメージがつく」というのがとても重要なことで、「一貫した印象を多くの人々に与えてる」という事で、競合他社との差別化、すなわち「ブランディング」が上手く機能しているという証拠になります。
これらの企業の共通するイメージとして、その製品、サービスが高品質なのはもちろんですが、内部の人たちも「生き生きとして」働き、「仕事に誇りを持っている」といった印象があるのかと思います。
「しかしこれは大企業の話でしょ?」と思うかもしれませんが、『Apple』や『ダイソン』のような企業でも、最初は倉庫の片隅から始まったベンチャー企業ですし、『ユニクロ』も元は個人経営の紳士服店でした。
実際の所、企業マインドの在り方に大企業か中小企業かはあまり関係がありません。むしろ「企業内の意思統一」や「事業に関する意思決定」が迅速に行いやすい中小企業の方が『デザイン経営』に向いている、とも言えます。
『デザイン経営』で実現出来ること
では実際に『デザイン経営』というもので実現出来るのはどういった事なのでしょうか?
上で述べた『デザイン経営宣言』の内容から抜粋しますと、
- ブランド力向上
- イノベーション力向上
というのがざっくりとした答えです。それぞれがどういったモノであるのか?具体的な例を上げて生きたいと思います。
ブランド力の向上
「ブランド力向上」というのはもう少しブレイクダウンしますと「ブランディング戦略による同業他社との差別化」という言い方もできます。
ブランディング戦略の具体的な内容とし、先ず外向きには「企業としての魅力、特徴、有益性を顧客に発信する事で業界内での独自の地位をを築き上げ、戦略的に唯一の存在となる」という事です。
内向きには「企業コンセプトの共有を内部スタッフ間で共有し、商品・サービスの品質維持・向上を実現する」という考えになります。
これらの取り組みにより、顧客のファン化を可能とし、同業他社との価格競争に巻き込まれる事が無くなり安定した収益構造が出来上がります。
『スターバックス』は離職率も低く、スタッフが溌剌と働くことでも知られています。価格を競合他社と比べるとやや高めであるにも関わらず「接客の質」「空間としての心地よさ」「全席禁煙」などの理由から顧客をファン化しており、業績は伸びる一方なのです。これはむしろ「顧客を選んでいる状態」とも言えま、ブランド力がとても強い企業の特徴なのです。
イノベーション力の向上
「イノベーション力向上」とは「業界や自社内での常識や思い込みに縛られず、時代の変化に適応したニーズ(需要)の掘り起こし」を行うという動きです。
例としてですが、『富士フィルム』は元々は「写真フィルム」の会社であり、フィルムの発色で「肌の美しさいかに高めるか」という課題に長年取り組んで来ました。
ここから「肌の美しさ」とは人々の健康に根ざしたものであり、企業の本質は「人々を生き生きとしたものとする事」、「人々の生活の質のさらなる向上」という考えに立ち返り、「化粧品」や「医薬品」の開発にまで手を広げたのではないかと考えられます。
これらの取り組みを行う上で「デザインの力」がとても有効に働きます。取り組みの過程でデザインが介在する事により、単なる「机上の空論」ではない「具体的なビジョンを伴った計画」が可能になるという事なのです。
例えば「パソコンの新規モデル」の開発の際、従来の経営層とエンジニアを中心に進めていた所に「デザイナー」を加える事で「ユーザー目線の俯瞰した視点」を加え、使い勝手の向上を目指すといった取り組みなどでしょう。
日本の家電製品が90年代初頭をピークにグローバル社会で売れなくなっている原因は明らか「デザイン」の問題です。
日本の従来的なプロダクトデザインは「技術的な機能性」を志向したモノが多く、「高品質=多機能」とうい発想のモノが未だに多い印象です。しかしこれはモノが行きわ渡った現代ではもはや通用しない考えで、「消費者のニーズとのズレ」がある、という事なのです。
例えばテレビのリモコンという事ですと、AppleTVと日本製テレビのリモコンを比較すれば一目瞭然ではないでしょうか?(想像が付かない場合は [AppleTV リモコン]で検索してみてください)世界市場が求めているデザインは、断然「AppleTVの方」という事になります。
なぜかと言うと、ソフトウェアと物理的なインターフェイスが緻密に融合ているため無駄を省いたシンプルな美しいデザインが可能となり、同時に操作性も高まり、「顧客体験の質をも高めている」、からです。これが世界市場が求めているデザインなのです。
「顧客体験の質を高めて生活を豊かにする」、イノベーションとはつまりこういう事なのです。イノベーションとういと「特殊な技術で人類をネクストレベルに導く様な壮大な発明」を想像するかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
一方で日本製TVのリモコンはゴチャゴチャして分かり難い・・・。ぼくは未だに使いこなせません・・・。違いは歴然ですね。
『デザイン経営』の中での理想のデザイナー像
さてこれまで見てきた『デザイン経営』といった考えの中での「デザイナー」とはいったどういった存在が適しているのでしょうか?
これはズバリ「ビジネス的な視点を持つデザイナー」という事になります。
「デザイナー」といってもその存在や肩書は多岐にわたり、「グラフィックデザイナー」「webデザイナー」「プロダクトデザイナー」「ファッションデザイナー」など多種多様です。
『デザイン経営』向きのデザイナーは肩書に関わらず、「職人的に依頼を受けて単に捌く」デザイナーでは無く「抽象度の高い視点でビジネス全体を俯瞰して見ることが出来、商売人の視点でプロダクトやサービスを考える」ことが出来るデザイナーです。
従来的なデザイナーのイメージである「職人的」な資質だけはなく「商売人」としての資質も持ち合わせたデザイナー、というとイメージが掴みやすいのかもしれません。
つまりデザイナーとしての技量は当然持ち合わせた上で、周り(他の職種)と連携して高いレベルでのアウトプットを可能にするための「コミュニケーション力」や、自ら発想してイメージを作り上げる「企画力」を持ち合わせた人材が理想的という事になります。
従来のインハウスデザイナー(お抱えデザイナー)にありがちな「指示された事項を黙々と形にする」という、流れ作業の一工程の様な存在としてデザイナーを認識していると『デザイン経営』は実現出来ません。
『デザイン経営』とクリエイティブ
『デザイン経営』を推進する上で、どうしても必要なのが「クリエイティブ(ホームページやパンレットなどの様々制作物)」です。
これらを形にしようという場合中小企業であれば、
- 自社でデザイナーを雇う
- 制作会社や広告代理店に依頼する
というのが主な選択肢かと思いますが。大企業や上場企業であれば大手広告代理店やコンサルティングファームと契約している場合が殆どですが、中小企業の場合は制作物のディレクションやコスト面なでも頭を悩ます部分でしょう。
何れもしても「依頼に対して単に作るだけ」という思考のクリエイターに任せるのは『デザイン経営』的ではありません。
デザイナーを採用するとしても「実務経験が乏しい(趣味に近い自称デザイナー)」場合や、単に「フォトショップやイラストレーターといったグラフィックソフトウェアが操作できるだけ」という場合も少なからず有ります。
一方で制作会社・広告代理店でも「単に作るだけ」という会社は多くあります。むしろ制作会社で企業のビジネスプランにまでわざわざ首を突っ込んでくる会社は殆ど無いでしょう。
制作会社は「経営コンサルティング」では無いので「依頼されたクリエイティブを作って納品」して案件終了、が通常フローです。納品してスパッと終わらせないと会社自体が回っていかないので、これはもう仕方がないとも言えます。
例えば、ホームページを作ったとして、これの「効果があろうが無かろうが感知する所では無い」、という会社の基本的なスタンスでたり、現実にそういった過会社が沢山あります。
一方でホームページを専門で作っている会社などはwebマーケティングの知見なども豊富な場合もあり、その後のホームページ運用を前提としている場合も多くあります。
ホームページを集客ツールとして機能させるべく、運用を前提としたパートナーとして制作会社に依頼する、とうことであれば、『デザイン経営』的な視点としては当然有効です。
しかし残念ながら、ホームページ専門の会社でもこういった視点が無い場合もあります。見極めとしては「提案内容にビジネス的な視点が盛り込まれているか」という事でしょう。
そもそも「提案がない(言われた通り作るだけ)」や「デザインの説明が無い」、「色や形の説明のみ」という場合は『デザイン経営』の視点からズレた制作物(単なるお飾り)となる可能性が高いので、依頼先を考え直した方が良いかもしれません。
クラウドワーキングという選択肢
最近話題の「クラウドソーシング」をご存知でしょうか?
「インターネット上のプラットフォーム(サービス基盤)でデザイナーが集い、依頼主の要望に応じてクリエイティブ制作を行う」というサービスです。
国内ですと『CroudWorks(クラウドワークス)』や『Lancers(ランサーズ)』などが有名です。特徴としては費用を一般的なデザイン制作費よりも安価に抑えることが出来る、という事かと思います。
例えば「ロゴと作る」といった場合であれば、デザインの要望とデザインフィー(費用)を設定すると、日本中のクリエイターが応募して来る、という感じになります。
但しクリエイターのレベルは様々で品質にもバラツキがあります。デザインフィーに応じて応募者数も変わって来ますが、例えば5万円のフィーで50案集まったとしても半分はクオリティー的に期待できないモノと見たほうが良いでしょう。
そしてこれは当然の事ですが、クリエイターは基本的に「要望にそったデザイン案を提示してくる」だけ、という事です。要望や方向性といったクリエイティブの根幹そのものを一緒に考える、という事は行わないという事を理解しておかないといけません。
自社内に「ビジネス理解の高いデザイナーが既に居る」といった場合であえればデザインを複数安価につくれるクラウドソーシングは有効のサービスかもしれませんが、そうで無い場合は安いという理由でけでこういったサービスに依存するのは危険だと考えられます。
この手サービスを上手く使うには相当なレベルの「デザインリテラシー(デザイン的な知見)」が必須だと言えます。
フリーランスとうい選択肢
最近増えている「フリーランス・デザイナー」に依頼すると、という考えかたも一つの選択肢です。
フリーランス・デザイナーも様々おり、経験、スキル、得意分野など、人によってバラバラであるのが現状です。
「20年の実務経験」がある場合もあれば、「3年広告代理店に勤めてフリーになる人も居ます。また経験は長く職人的なスキルは高いが「ビジネスの視点が希薄」の様な人も少なからず居ます。
見極めとしては当然ながら「ビジネス的な視点を持ち合わせているかどうか?」、に加え「横断的に広い知見を持ち合わせているか?」が大事になります。
具体的には「webデザイン」や「グラフィックデザイン」など専門性に特化した人よりは、どちらにも精通しているデザイナーの方が『デザイン経営』向きの人材と言えるでしょう。
加えて「ブランディング」や「マーケティング」などのビジネス的な知見を持ち合わせたデザイナーであれば理想的です。
もう少し掘り下げますと、フリーランス・デザイナーには広告代理店や制作会社の「下請けとしてクリエイティブ制作を主に行う」タイプと、「企業と直接取り引きしてデザインコンサルタント的な役割を担うタイプ」の2種類に大雑把に分ける事ができます。
前者が「御用聞きタイプ」であれば、後者は「ドクタータイプ」と言えますが、これは依頼主をクライアントとして受け入れ適切な診断(ヒアリング)をした上で処方(何を作るかやクリエイティブの方向性)の仕方を決めて行くタイプのクリエイターだと言えます。当然『デザイン経営』向きは後者の「ドクタータイプ」ということになります。
フリーランス・デザイナーを選ぶメリット
単純にクリエイティブ制作をフリーランスに外注することのメリットは正社員としてデザイナーを迎え入れるよりもコストが抑えられるという事かと思います。(中小企業にとっては大事な視点です)
これはクリエイティブの物量や内容にもよりますが、内容を精査して何をやるのかを一緒に考えられるフリーランス・デザイナーであれば割安になる、という考え方です。
なお正社員を雇い入れるとして、ある程度の経験者で且つビジネス視点を持ち合わせた有能のデザイナーをエージェントなどで探しても滅多に居ないでしょう。何故ならそういったデザイナーは既に独立しているか大手の広告代理店やコンサルティングファームのお抱えとなっている場合が多いからです。
また『デザイン経営』の観点から考えますと、外部の人間がコンサルタント的な視点で「デザイン参謀」となるほうが「新しい視点」や「本質的な問題点」(共に内部的には当たり前と思われているため気づき難い)が見えやすくなる、という利点も考えられます。
内側の人間ですと、どうしても「仕事がナアナア」になってしまうとうい事は良くあります。『デザイン経営』の肝は「明確なビジョンを持ち合わせた戦略的な思考」ですので、経営トップ(クリエイティブ責任者・権限者)と対等に議論できる人間でなければ上手く立ち行きません。
フリーランス・デザイナーで経験のある人間であればそういった動きにも対応でき、『デザイン経営』を進める上で有効な手段と成り得る、考えられます。
総括
さて、中小企業が『デザイン経営』を進める上で必要なデザイナー像が大分見えてきたのかと思います。
制作会社、デザイナーにも様々なタイプがあり、デザインをビジネスに活かす上では「デザイナー(及び制作会社)の見極めがとても重要」という事が理解できたと思います。
これからの時代はビジネス的な視点を持ち合わせたデザイナー・クリエイターと共にビジネスを推進する事が「企業の永続的な活動」に必要な事なのです。
